「ILLIT『Almond Chocolate』歌詞の意味と考察 ― 甘くほろ苦い“推し愛”の心情」
はじめに:曲の背景と基本情報
「Almond Chocolate(アーモンドチョコレート)」は、ILLITが2025年2月14日に日本で先行配信した楽曲で、実写映画 『顔だけじゃ好きになりません』 の主題歌にも起用されています。(uta5歌詞動画反応)
韓国語バージョンも後にリリースされ、ILLITの国際的な活動を示す代表曲のひとつとなりました。(ウィキペディア)
この曲の歌詞は、「憧れ(推し)として見ていた存在に、いつしか恋心を抱くようになる」心情を、「アーモンドチョコレート」という比喩を通して描きます。甘さと苦さ、距離感や近づきたい気持ち、複雑な心の揺らぎがテーマです。(UtaTen)
以下、主要フレーズを引用しながら意味を読み解き、曲全体の世界観を浮かび上がらせてみましょう。
歌詞の引用と意味・考察
「君はまるで Almond Chocolate 甘い外側 苦い内側」
넌 꼭 그것 같아 Almond Chocolate
달콤 쌉싸름한 빠져버린 그 맛
—(歌詞より一部抜粋)(とれんどねっと)
この冒頭フレーズは、この曲の中心的な比喩を提示しています。「君はまるで Almond Chocolate(アーモンドチョコレート)」という言葉が、彼/彼女の“甘さ”と“苦さ”を同時に包み込んで、魅力と複雑さを併せ持つ存在として描いています。
- “甘い外側” は、表面的な魅力、心地よさ、安心感といった要素を指すでしょう。
- “苦い内側” は、戸惑い、不安、切なさ、予期しない部分、意外性といった内面の揺らぎを象徴しているように思えます。
このように、「甘さ」と「苦さ」が共存しているという比喩こそ、恋愛の緊張感や揺らぎをよく表した表現だと言えます。
「過剰な摂取で すでに中毒 溢れだすこの気持ち」
헤어날 수 없어 이미 중독된 나
넘치겠어 이런 내 맘이
—(歌詞より引用・意訳)(とれんどねっと)
このフレーズでは、恋する感情が「中毒」に例えられています。通常、中毒は制御できなくなる状態を指します。ここでは、感情がもう抑えきれず、心のあふれが抑制を超えてしまっている様子が描かれています。
“すでに中毒”という言葉からは、「もう戻れない」「気持ちを止められない」という強い決意や切迫感も感じられます。
「綺麗な瞳 手の温もり … 気まぐれな Smile」
그 예쁜 눈동자 그 손의 따스함
얄미운 말들과 제멋대로인 Smile
—(歌詞より一部抜粋)(K-POP 歌詞 和訳)
ここでは、視覚・触覚・表情という感覚的なモチーフを通して、相手の魅力が具体的に描かれます。
- “綺麗な瞳” は視線の魅力、目と目が合う瞬間のドキドキを暗示するもの。
- “手の温もり” は物理的な接触/距離の近さを感じさせる表現。
- “ずるい言葉(意地悪な言葉)” や “気まぐれな Smile” は、相手の揺らぎや一貫しない態度が胸をざわつかせる様子を示しています。
これらの描写は、ただ“好き”というだけでなく、その人の揺れや予測できない面までも含んだ深い関心・愛情を表しているように感じられます。
「ひとつひとつ 胸のフォルダに 君を追加していくたび 好きになっていく」
하나씩 하나씩 마음의 폴더에
네 모습 추가할 때마다
점점 더 좋아져
—(歌詞より引用・意訳)(アメーバブログ(アメブロ))
この表現は非常に現代的で、デジタル時代ならではの比喩です。「心のフォルダに君を追加する」という言葉が意味するのは、少しずつ相手の情報・記憶・存在を自分の内部に取り込んでいく過程。
“君を追加していくたび/好きになっていく” という流れからは、段階的な深化、自覚・承認のプロセスが感じ取れます。最初はふんわりした思い、しかし情報や体験を重ねることで「好き」が積み重なっていく様子が見えるのです。
「“推し”は energy/“恋”は苦しい 増えていく悩み」
“推し” は energy 消える悩み
“恋” は苦しい 増えていく悩み
—(歌詞より一部意訳)(ひでもんカフェ)
この一節は、曲全体を通してのテーマにも関わる対比を明確に語っています。「推し」は応援者目線での一方通行の愛、エネルギー源であり、悩みが消えるような「癒し側面」が強調されます。一方で「恋」になると、苦しさ・葛藤・悩みが増えていく、と。
この対比は、「憧れ」と「恋愛感情の当事者性」との境界を揺らがせるようなテーマ意図を感じさせます。まだ推し側の距離感を保ったまま「好き」が芽生えていく揺らぎを、この対比によって鮮やかに浮かび上がらせています。
「私だけが知っている だけじゃない魅力・甘くとろける・苦く弾ける その全てが special」
私だけが知っている だけじゃない魅力
甘くとろける 苦く弾ける その全てが special
—(歌詞より引用風表現)(ひでもんカフェ)
このフレーズでは、相手を「特別な存在」として肯定する気持ちが込められています。「私だけが知っている魅力」という言葉には、近くで見るからこそ気づく一面、他の誰にも見えていない部分を愛したいという気持ちが現れています。
“甘くとろける 苦く弾ける” という語は、再び「甘さと苦さの共存」を強く意識させる表現です。苦味も含めてその人の全部を “special(特別)” として受け入れようという宣言的な響きがあります。
構造とテーマ分析
引用した各パートを整理すると、この楽曲は次のような構造とテーマの流れを持っているように読み取れます。
- 比喩提示(アーモンドチョコレート)
まず、相手を「甘く苦い存在」として捉える比喩を示すことで、曲全体のトーンを設定します。 - 中毒・抑えきれない感情
次に感情の高まりを “中毒” という語で語り、もう抑制できない状態を描写します。 - 感覚的ディテール描写
視線・触覚・表情など具体的なモチーフを通して、相手の魅力が五感に染み込んでくるような描写を挟む。 - 情報蓄積・深化の過程
“胸のフォルダに追加していく” という比喩で、相手を少しずつ自分の中に取り込んでいく過程を描写。 - 対比思考:推し vs 恋
応援者としての「推し」と、主体的な「恋」の間の心情の揺らぎを語る。 - 肯定・特別化
相手を「特別な存在」として肯定し、甘さも苦さも含めて受け止めようとする主体の宣言。
このような構造は、単なる“好き”の感情表現ではなく、感情の芽生え・葛藤・承認・肯定までを一つの流れとして描き出していると見ることができます。
映画『顔だけじゃ好きになりません』との関係性
この楽曲は、映画 『顔だけじゃ好きになりません』 の主題歌に起用されており、曲と映画のテーマや世界観は密接にリンクしています。(イベント情報館)
原作漫画・映画のあらすじを簡単に振り返ると、主人公・才南は、顔が美しくて人気の先輩・奏人の “推し活アカウント” を任されることから物語が始まります。そこから、推しとして応援していた存在との距離が少しずつ変わり、心が揺れ動く恋愛模様が展開します。(イベント情報館)
つまり、冒頭は「推しとして遠くから見ている関係」が前提にあり、それが徐々に「恋愛対象への感情の変化」へと深化していくストーリーが、歌詞の流れと共鳴します。歌詞中の「推し vs 恋」の対比や、距離感・近づく感覚・情報を知ることで変わっていく心情は、まさにこの映画のテーマと重なっているのです。
さらに、映画の観客がキャラクターの心情を追体験するための「感情のガイド」として、この主題歌は機能していると考えられます。楽曲が流れることで、映画シーンの裏側にある感情を深める助けにもなります。
読み替え・揺らぎの可能性
どの歌詞解釈にも揺らぎはあります。以下は別方向からの見方・読み替えの提案です。
- “中毒”表現の過激さ
感情を「中毒」に例える表現は、愛の強さを強調する一方で、依存性=コントロールの喪失や苦しさという暗い側面も含む可能性があります。好きになりすぎて自分を見失う恐れ、逆にその苦しさと闘う主体性を問う解釈もできます。 - “フォルダに追加”というメタ認知
デジタルデータのように「追加していく」という比喩には、距離を置いて自己客観視して処理していく視点が含まれるとも読めます。つまり感情に流されるだけでなく、自分の中で整理・管理しようとする動きも感じられます。 - “推し→恋”の移行過程の曖昧性
歌詞中で「私はまだどっちだか分からない」という揺らぎの言葉も出てきます。これは、推し/恋という二項対立を超えて、曖昧な中間領域にある感情を描いている可能性があります。推しとしての距離を保ったまま恋に近づく、その過程の不安定さを意図しているかもしれません。 - 甘さ・苦さが時間とともに変化するものとして読む
“甘い”段階が最初にあり、後から“苦さ”が顔を出すものとして読むと、人生・恋愛の成長曲線や、理想と現実の衝突を重ねて読むこともできます。
総括:甘く苦い心の物語として
ILLIT「Almond Chocolate」は、ただの恋愛ソングではなく、憧れ・距離感・情報・葛藤・肯定へと至る感情のプロセスを丁寧に描き出した楽曲です。
- 「アーモンドチョコレート」という甘さと苦さの共存する比喩
- 中毒・抑制不能の感情
- 五感を通した魅力の描写
- デジタル比喩(フォルダに追加する)
- 推し vs 恋という対立と揺らぎ
- 映画とのシンクロニシティ
これらが有機的に絡み合って、この曲は「好きになる過程」の複雑さと美しさを、Z世代的な感性で表現しています。
そして、映画『顔だけじゃ好きになりません』とのタイアップにより、歌詞の意味はより立体的に響きます。楽曲は映画の物語を彩るだけでなく、観客に感情の“裏側”を感じさせるガイドとなっているのです。
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